百合キチ三平

百合漫画の書評やその他百合コンテンツ評、百合クリエイター評など

大人百合中心同人即売会「2OL」参加レポ

 

 9月24日、飯田橋にて大人百合をテーマにした即売会『2OL』が開催されたのでサークル参加してきました。

 

eventregist.com

 

 百合を主体に据えた同人イベントといえば『Girls Love Festhival』が有名ですが、とある組み合わせや属性にスポットを当てた百合のオンリーイベントというのは滅多にありません、というか本格的なものはこれが初なのではないでしょうか。

 

 私は何を隠そう、大人百合が大好物なのです。「百合の世界入門」には社会人百合漫画ベスト5を寄稿したり、webメディアのコラムでこんな記事を買いたりと、その魅力を訴え続けたのも間違いではありませんでした。

 

 さて、肝心のイベントなのですが、私といえば唯一の頒布物が今年の夏コミでも頒布した、百合ップルが超巨大人食いサメと遭遇する百合小説『百合ップル vs メガ・シャーク』。設定もタイトルも表紙画像もIQが低そうなこの本ですが、実は内容は教師×ネイリスト、ベテラン女漁師×新人女漁師と、大人同士の百合ップルがしっかりと登場しています。

 

 会場は飯田橋にある小さなビルの貸会議室。約40の参加サークルがひしめく中、私の配置スペースは『営業1』。他にも『企画』『経理』『広報』『人事』など、ビジネス感のあるスペース名が並んでいます。今回のイベントには『明るい記憶喪失』などで知られる奥たまむし先生や、『デミライフ!』の黄井ぴかち先生、みなさんご存知森島明子先生など、著名な人気作家の方々も参加しており、一段と期待も高まります。

 

 会場内では大人百合をイメージしたというBGMが流れており、私的にも大好きな一曲であるドリカムの『やさしいキスをして』や宇多田ヒカル×椎名林檎の『二時間だけのバカンス』など、外さないチョイスに気持ちが踊ります。事実、主催の3木さんは私のスペースの横で踊っていました。

 

 さて、私の配置スペース『営業1』はといえば、会場入口の真正面というとっても素敵な場所でした。

 

 

 正午の開場と共に、多くの一般参加者の方々が訪れ、開場は満員に。このイベントがどれだけ期待されていたのかを象徴していました。開場から一時間と経たないうちに、開催時間の延長が決まったりと大盛況。一般参加者の足は途切れることを知らず、それでも運営の方々の適切な客さばきによって、会場が混乱したり混雑したりすることはありませんでした。個人的にはスタッフの方々がかぶっていた『2OL』と書かれていた帽子が気になるところです。

 

 一般参加者にまぎれて、私も折を見てはスペースを離れてお買い物。多くの大人百合本をゲットしてほくほくでした。特に女教師百合が大好物な私にとって、かねてより大ファンである黄井ぴかち先生の女教師百合本を手に入れたのは何よりの幸福。

 一般参加者の方々を見て思ったのが、スーツ姿の女性客が非常に多かったこと。まるで仕事の昼休みにフラっと寄ってみました、みたいな姿の女性もいたりして、あれは社会人のコスプレなのか普段の仕事着なのかプライベートの私服なのか気になるところなのですが、会場の空気と非常にマッチしていました。

 

 数少ない社会人百合の供給を逃してなるかとあれもこれも手に入れていく一般参加者達。中には全サークルの本を片っ端からゲットしていく猛者もいて、そうなると完売するサークルも目立つようになります。かくいう私のほうも、開場から二時間ほど経って無事完売。ちなみに『百合ップル vsメガ・シャーク』は手持ちを全てはけてしまい再販の予定もないので、現在残っている在庫分はとらのあな通販のみ。気になる方はチェックお願いします。

 

 イベントに参加していて感じたのは、運営もサークル参加者も一般参加者も、全員確かに大人百合への強い愛情を持っているのだということが言葉なくとも伝わってくることです。オンリーイベントと呼べるものは大抵そうなのですが、やはり需要と供給がはっきりと見えているコンテンツは身を置いていて心地が良いのですね。なお、当日のサークルカタログ(?)的なものには大人百合オタクにしか解けないクロスワードパズルが載っていたようなのですが、私は手に入れ損ねてしまいました。

 

 午後三時頃に清々しい気持ちで会場を後にした私。実は同人活動は今年の夏コミで最後にしようと思っていたのですが、こういうイベントの面白さを知ってしまったらなかなかやめられないなと感じ、同人活動を続けることにしました。同イベントの二回目の開催は未定ですが、できれば第二回、第三回と続くイベントになってくれればと思いました。

 

 

大人の恋愛はややこしいほど魅力的『不条理なあたし達』

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 先日、引っ越しに伴って押し入れの奥にある段ボール箱の中に眠っている大量の同人誌(九割以上が百合)を整理していて気付いたのですが、私が最も同人誌を所有している作家は竹宮ジン先生なのです。
 同人と商業を両立させた上で双方の新刊の刊行ペースを考えると、ジン先生の百合に対する創作意欲と執筆ペースは百合漫画界でもトップクラスであることはまず疑いようがありません。学生百合から社会人百合まで幅広く扱い、それでいて高い品質を安定してキープできる才能には畏敬の念すら抱きます。
 先月刊行されたジン先生の新刊単行本『不条理なあたし達』はそんな作者の魅力が十二分に詰まった社会人百合作品です。

 

 仕事をテキパキとこなす優秀かつクールなOLの山中は、ビジネスの場で幾度も顔を突き合わせる商売相手でもある得意先の社長令嬢とベッドを共にしたりするなど、少しクセのあるレズビアン。そんな彼女の職場に新しく入社してきた後輩のゆるふわ系美女・種田から、山中の行きつけのビアンバーへと飲みに誘われたことにより、二人の関係が単なる先輩と後輩の構図から動き出します。
 幾度もベッドを共にしている相手から、事後に男との婚約を聞かされても冷めた対応で済ませる山中、そんな山中に怪しい笑みを携えて近づく種田。二人の成年女性の関係がやがて恋へと発展していくとき、そこにどんな駆け引きが生まれていくのか。

 

 「不条理」とは一般的に「物事の道理が合わないこと」を意味します。人間の複雑な心の内を掘り下げるほど、ドラマは調和や都合というものから切り離されていくものかもしれません。
 大人同士、同性同士、同じ職場の先輩と後輩……互いの見えない腹を探るように進む、ただでさえ一癖も二癖もある二人の関係を掘り下げた本作も、また不条理を掲げ、不条理に踊らされる恋愛模様を記しています。終盤、種田が山中に対して複雑な笑みを含んで口にする「人の気も知らないで…」と口にする場面は、本作の持つ魅力を強く噛みしめることのできるシーンでした。
 
 竹宮ジン先生の作品では時折ビアンバーが登場し、キャラクターの人となりを現したりはもちろん、物語の演出や潤滑油として大きな機能を果たすことがありますが、本作に於いてもキャラクター達の入り組んだ心理や関係性を整える重要な道具立てになっています。
 冷めてはいるけれど乾いてはいない、単純そうでややこしい、そんな関係が記されているからこそ、ラストの展開が持つ一種の爽やかさをより大きなものにしているのかもしれません。
 会人百合の魅力といえば「大人ならではのもどかしさ、ややこしさ」もそのひとつですが、そういった意味では本作はその要素もたっぷりと味わうことができ、噛みごたえのある大人の百合を味わいたい人にはうってつけの一冊でしょう。

 

不条理なあたし達

不条理なあたし達

 

 

 

絶妙なキャラと関係性がヤバい設定を笑いに変える『将来的に死んでくれ』

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 ロマンス色の強いフィクションには、いわゆる奴隷モノというのか、「人身売買によって成立している関係から恋愛感情が芽生える」といった展開を持つジャンルも珍しくありません。実際にはそんなことが起こりえる可能性は低いからこそフィクションたりえるのですが、まだ売買関係すら成立していない「お金で性的に身体を買いたがる人間と、それを拒み続ける人間」というある種の暴力性を含んだ構図は多くの人に生理的な嫌悪感を示しやすく、その関係性を維持したまま気持ちのいいコメディに昇華するのは恐ろしく難しいものです。

 だとすれば別冊少年マガジンで連載されている長門知大先生の『将来的に死んでくれ』はそれに成功している稀有な例なのですが、それは難しい設定をクリアするための絶妙なキャラクターやその関係性の描写が光っているからだと言えます。

 

『将来的に死んでくれ』は長門知大先生がツイッターやpixivで掲載し話題になっていた百合漫画が商業連載になった作品。クラスメイトの刑部小槇に恋をした15歳の菱川俊は幾度となく小槇にお金を払って性交渉を求めるものの、当然ながら拒絶される日々。それでもめげることなく折に触れて万札をチラつかせては小槇に暴走した愛を貢ぎ続けようとする俊とそれをクールに受け流し続ける小槇の関係を中心にした百合コメディです。

 小槇とのデートでラブホテルの前を通り、あそこで休んでいこうと要求したり、小槇のバイト先の居酒屋でドンペリを注文しようとしたり、やっていること自体は下品なおっさんのそれである俊の行動がそのキャラクターと空回り具合で笑いを誘う本作。

 自分の欲望に忠実な俊の行動は本来なら存在自体を否定されてもおかしくないようなものなのですが、小槇は俊に呆れ尽くしながら彼女の要求を拒みはしつつも(金銭面の見返りを求めない方向で一部の要求を飲みつつも)、俊から遠ざかろうとしたりせずにむしろ友人としての関係を快く維持しようとしています。

 それは俊にとって惚れた弱みと言うか、基本的に二人の力関係は比較的小槇のほうに分があり、俊も下手なりの知略を巡らせては小槇に自分の要求を叶えさせようとするものの、その多くはお金の魔力には決して揺るがない小槇の性分と勘の良さの前に失敗に終わります。だからといって俊は本当に圧倒的な力で小槇をねじ伏せようとはせず譲歩は覚えていますし、小槇のクールさと寛容さに支えられてる部分こそあるものの、一定の領域に踏みとどまれるある種の信頼関係のようなものが二人の間で構築されており、こういった絶妙なキャラクターと関係性の描写が設定の嫌悪感を相殺して、読者に安心感を含んだ笑いと百合の楽しみを提供しているのでしょう。

 この状況から二人の関係性は将来的にはどのように転がるのか。小槇の心が俊に傾くことははたしてあるのか。それともこの暴力的な構図を鮮やかに転化したコメディな関係が続いていくのか。想像が難しいところですが今後の展開に期待です。

 

将来的に死んでくれ(1) (講談社コミックス)

将来的に死んでくれ(1) (講談社コミックス)