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百合キチ三平

百合漫画の書評やその他百合コンテンツ評、百合クリエイター評など

恋も2度目なら……ハッピーエンドしか想像できない「明るい記憶喪失」

 

 

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 恋心も下心も、自分の気持ちに正直な女性が主に描かれる良質なオリジナル百合を多く発表し、ツイッターを始め、ネット上で絶大な支持を受ける百合漫画家の奥たまむし先生の新刊「明るい記憶喪失」の1巻が発売されました。

 

 

 昨年の3月に投稿されたこのツイートをきっかけに商業媒体での連載まで進み、わずか1年で単行本の刊行まで流れていった本作は、純度100%混じりっけなしの「恋愛感情」を拝むことのできるコメディタッチの良作百合。

 3年分の記憶を喪失してしまったアリサが病院で目を覚ますと、傍らにいたのは同棲中の恋人のマリ。アリサはマリとの日々を全く思い出せないものの、一目見た瞬間からマリに惚れてしまい……という本作。

「パートナーと恋をもう一度やり直す」というのは恋愛作品における定番のテーマでもありますが、本作はその中においてもかなりのイレギュラー。アリサのとにかくハイパーポジティブな性格が物語の核となっており、タイトルの通り、マリさんを愛する気持ち、恋人であるという喜びが記憶喪失の悲しみや不安を軽々と吹き飛ばし、悲壮感はほとんどゼロ。記憶がないながらもそれなりに日常や恋愛を楽しくやれてしまっているのです。

 パッと見はマリさんがアリサをリードする側に見える二人ですが、実はマリさんが心配性で不安を取り除くためにアリサにハグをしてもらったり、(アリサの記憶からは失われているものの)夜はアリサがリードする側だったりと、アリサが自分好みの下着をマリに着せたり、そもそも二人の交際自体アリサからのアプローチがきっかけだったりと、そこは常時恋愛感情が剥き出しであり、かつ底抜けに明るいアリサの性格が手伝って、全体的にはアリサが二人の関係を牽引する立場になっています。その辺のギャップも百合厨には美味しいところ。

 いざ、自分が記憶を失ったとしても、もう一度恋人と向き合ったときに、以前のような恋愛感情を抱くことができるかどうか、というのはなかなか難しい話題です。実際に恋人と話し合うにはまずもって地雷でしかないテーマかもしれません。

 そんなテーマにおいて純度100%の恋愛感情をぶつけ、受け止め、困難を困難とも思わないアリサと、それを受けとめるマリさんの関係性を描いた本作は、恋愛感情の理屈の無さを真正面から肯定する本作は、読む者を幸せの渦に巻き込む強烈なエネルギーを宿しています。「自分の恋愛感情に正直な女性(ただし百合に限る)」を描かせたら右に出る者がいない奥たまむし先生の本領がフルパワーで発揮されており、今後アリサの記憶が戻るにしても戻らないにしてもハッピーエンドしか想像できない本作の今後を期待しましょう。